八幡大蔵病院

八幡大蔵病院は心と体のケアを通じて地域医療に貢献して参ります。

認知症について

認知症について

認知症とは

認知症は、脳の機能が徐々に低下し、記憶や判断力、思考能力、日常生活の遂行能力に深刻な影響を及ぼす病気です。単なる老化による「物忘れ」とは異なり、認知症は日常生活に支障をきたすほどの認知機能の障害を引き起こします。認知症は進行性の疾患であり、時間の経過とともに症状が悪化していくことが特徴です。

認知症と老化による物忘れの違い

加齢に伴う記憶力の低下は自然な現象ですが、認知症とは異なります。通常の老化では、例えば、ある事柄を忘れても後から思い出したり、ヒントをもらうことで記憶が甦ることが多いです。しかし、認知症の場合は、忘れたこと自体を認識できなかったり、思い出すことが難しくなります。加えて、認知症は単なる記憶の問題にとどまらず、判断力の低下日常的なタスクを遂行する能力の低下など、広範囲にわたる機能障害を引き起こします。

軽度認知障害(MCI)について

健常者と認知症の人の中間の段階(グレーゾーン)にあたる症状に、軽度認知障害(MCI)があるといわれています。MCIとは主に、通常の老化よりも記憶力の低下が見られるものの、日常生活には大きな影響を与えていない状態のことです。

MCIが認知症の中間の段階にあるというのは、毎年約10%のMCIの人が認知症に進行することが報告されているためです。MCIの段階で生活習慣を含めたライフスタイルを見直すことなどで認知症への進行を予防できる事が報告されていますので、物忘れも早期発見・早期対応が重要です。

認知症の主な症状、種類と進行速度

認知症は複数の症状を引き起こし、症状の出方や進行速度は個人や認知症の種類によって異なります。認知症の症状は、大きく分けて「中核症状」と「周辺症状(BPSD)」の2種類に分類されます。

中核症状

中核症状とは、認知症そのものによって直接的に引き起こされる脳の機能障害を指します。この症状は、どのタイプの認知症でも共通して見られます。代表的な中核症状には以下があります。

  • 記憶障害:最近の出来事を忘れやすくなり、何度も同じことを繰り返し質問する
  • 理解・判断力の低下:物事を適切に判断する能力が低下し、日常生活での決定や問題解決が困難になる
  • 見当識障害:日付や場所、時間がわからなくなる、知っているはずの人を認識できなくなる
  • 言語障害:言葉が出てこなくなったり、話が通じにくくなる

周辺症状(BPSD)

周辺症状(BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は、中核症状に伴って現れる行動や心理的な変化です。これらの症状は、個人によって出現の仕方や程度が異なり、介護や生活への影響が大きいことが特徴です。主な周辺症状には以下があります。

  • 幻覚・妄想:見えないものが見えたり、ありえないことを信じる
  • 興奮・攻撃性:理由なく怒ったり、暴力的になる
  • 徘徊:意味もなく歩き回ったり、家を出て行方不明になる
  • 抑うつや不安:気分が沈んだり、不安が強くなる
  • 睡眠障害:夜に眠れなくなったり、昼夜逆転が見られる

認知症の種類と進行速度

認知症にはいくつかの種類があり、それぞれで進行速度が異なります。進行速度を把握することで、介護の計画を立てやすくなるでしょう。代表的な認知症には以下があります。

  • アルツハイマー型認知症
    脳内にアミロイドβタンパク質が蓄積し、神経細胞が破壊されることが主な原因です。認知症の中でもっとも割合が多く、全体の70%近くを占めます。アルツハイマー型認知症は時間をかけてゆっくり進行するのが特徴です。
  • 脳血管性認知症
    脳の血管が詰まったり出血したりすることで、脳に十分な酸素や栄養が供給されなくなり、脳細胞が死滅することが原因です。アルツハイマー型認知症に次いで多く、認知症全体の約20%を占めます。脳血管性認知症は、脳血管に障害が発生するたびに進行するのが特徴です。障害が起きる血管の場所によっては、進行がわずかで済むこともあれば、急激に進行することもあります。
  • レビー小体型認知症
    脳内にレビー小体という異常なタンパク質が蓄積することが原因で、脳機能が低下します。これは、パーキンソン病と似た症状を伴うこともあります。レビー小体型認知症は、ゆっくりと進行しますが、時間や日によって症状の変動が大きく、進行状況を把握しづらいのが特徴です。初期段階では認知症特有の「物忘れ」が目立たないこともあり、知らぬ間に進行していることもあります。
  • 前頭側頭型認知症
    脳の前頭葉や側頭葉が変性し、特に行動や感情に関連する機能が影響を受けます。知っているはずの場所で迷ったり、日付や時間を正確に把握できなくなることがあります。前頭側頭型認知症は、通常、ゆっくりと進行します。初期段階では、人格の変化や行動の異常が見られたり、無気力や無関心といった症状が現れたりすることがあります。

認知症の治療方法

前述した認知症は、いずれも完治が難しいといわれています。これらに対しては、完治を目指すのではなく、進行を遅らせたり、症状を和らげるための治療やケアが行われます。治療は主に薬物治療と非薬物治療に分けられます。

薬物治療(認知機能改善薬)

認知症の進行を遅らせる薬として、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、レミニール、リバスタッチ)やNMDA受容体拮抗薬(メマンチン)が使用されます。これらの薬は、特にアルツハイマー型認知症に対して効果があり、脳内の神経伝達物質のバランスを整えることで、症状の進行を遅らせます。また、これらの4種類の薬は、症状の進行度やBPSD(行動・心理症状)に応じて使い分ける必要があります。

  • コリンエステラーゼ阻害薬
    代表的な薬剤としてドネペジル、レミニール、リバスタッチがあり、記憶力や認知機能の低下を遅らせる効果があります。主に軽度から中度のアルツハイマー型認知症に使用されます。
  • NMDA受容体拮抗薬
    NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)は中度から重度のアルツハイマー型認知症に対して、興奮性神経伝達物質のグルタミン酸を調節し、認知機能を維持する効果があります。

非薬物治療

認知症の治療には、薬物以外の治療法も重要です。これには、リハビリテーションや認知症ケアの一環として行われる認知行動療法が含まれます。

  • リハビリテーション
    記憶力や日常生活での自立を支えるためのトレーニングが行われます。認知症の進行を抑え、生活の質を向上させることが目的です。
  • 音楽療法や回想法
    音楽や過去の思い出を振り返ることで、認知症の進行を緩和し、精神的な安定を図る療法です。特に中等度から重度の認知症に効果があるとされています。
  • 運動療法
    散歩などの有酸素運動や、ラジオ体操、スポーツを通じて、脳への刺激を増やすとともに、筋力や心肺機能を維持し、気分転換を図ります。身体機能を維持・向上させることは、認知症の方の生活の質を保つだけでなく、介護者の負担軽減も期待できます。

認知症のケアにおける周囲の役割

認知症の治療や改善には、病院での医療・介護が不可欠ですが、それと同様に、家族や周囲の方々のケアとサポートも非常に重要な役割を担っています。信頼できる家族や近しい人々からのケアは、認知症の方の精神的安定や安心感をもたらし、結果として治療効果を高めることに繋がります。特に薬物療法やリハビリテーションなどの医療的アプローチだけでなく、心理的なケアが治療全体に良い影響を与えることが知られています。

家族のサポートがもたらす効果

家族からの継続的な支えは、認知症の方の心の安定を保つために不可欠です。日々の生活での支援や、親しい人との交流があることで、混乱や不安感が軽減され、感情の落ち着きが見られることが多くあります。また、家族が積極的に治療に関わることで、症状の悪化を遅らせる可能性も高まり、生活の質を向上させることが期待できます。

介護者の負担を軽減するためのサポート

家族によるケアが続くと、介護者自身が疲弊し、いわゆる「介護疲れ」に陥るリスクがあります。これは、家族の心身に大きな負担をかけ、共倒れのリスクを高めることになるため、適切な支援を受けることが必要です。地域包括支援センターやケアマネジャーと連携し、以下のようなサービスを利用することで、介護負担を軽減できます。

  • デイサービス
    日中に認知症の方が専門的なケアを受け、家族が一時的に介護から離れることができます。
  • 訪問介護
    自宅に介護スタッフが訪問し、日常生活のサポートを行います。
  • ショートステイ
    短期間、施設に入所してケアを受けることで、家族が休息を取れる機会を提供します。

早期発見と治療の重要性

認知症は、早期発見・早期治療が進行を遅らせるために非常に重要です。認知症の初期症状は見過ごされがちですが、家族が「もしかして」と感じた段階で速やかに医療機関を受診することが大切です。早期に診断を受け、適切な治療を開始することで、認知症の進行を抑え、日常生活を自立的に送る期間を延ばすことが期待できます。これは介護負担の軽減にも繋がるため、認知症の方を含めた家族全員の生活の質(QOL)の向上に結び付きます。

八幡大蔵病院について

八幡大蔵病院(精神科・神経内科)は北九州市八幡東区河内の病院で、認知症の診断・治療を行っています。診断により、認知症を集中的に治療する認知症治療病棟への入院も可能です。

認知症の初期症状は、加齢による物忘れと判断がつきにくい傾向にあります。加齢による物忘れではなさそうだと思われる場合は、下記よりお気軽にご相談ください。

医療法人緑風会

093-651-2507